大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所鹿屋支部 平成2年(ワ)105号 判決

主文

一、原告と被告鹿児島リコー株式会社との間において、原告が、別紙物件目録記載(一)の土地のうち、別紙図面のイロハニホヌルヲワカイの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分について囲繞地通行権を有することを確認する。

二、原告と被告岩越保典との間において、原告が、別紙物件目録記載(二)の土地のうち、別紙図面のホヘトチリヌホの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分について囲繞地通行権を有することを確認する。

三、被告鹿児島リコー株式会社は、原告に対し、別紙物件目録記載(一)の土地のうち、別紙図面のイロハニホヌルヲワカイの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分について、柵・塀・物置その他原告が通行する妨げとなる一切の工作物を設置してはならない。

四、被告岩越保典は、原告に対し、別紙物件目録記載(二)の土地のうち、別紙図面のホヘトチリヌホの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分について、柵・塀・物置その他原告が通行する妨げとなる一切の工作物を設置してはならない。

五、訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文と同旨

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は鹿屋市笠之原町一〇二八番三山林二二四平方メートル(但し、現況は宅地。以下「一〇二八番三の土地」という。)を、被告岩越はこれに北隣する別紙物件目録記載(二)の土地(以下「(二)の土地という。)を、被告鹿児島リコー株式会社(以下「被告鹿児島リコー」という。)はこれに北隣する別紙物件目録記載(一)の土地(以下「(一)の土地」という。)を所有しているが、(一)の土地は北隣が国道二二〇号線の公道に接続している(別紙図面参照)。

2. 原告所有の一〇二八番三の土地は他の土地に囲繞せられて公路に通じない。

3.(1) 一〇二八番三の土地と(一)、(二)の各土地はいずれも元有村正二の所有であった(但し、(一)、(二)の各土地は、元鹿屋市笠之原町一〇二七番一宅地五三九・八三平方メートル〔以下「一〇二七番一の土地」という。〕にこれと南隣する同市同町一〇二八番一山林三一〇平方メートル〔以下「一〇二八番一の土地」という。〕が昭和六三年一二月八日合筆され、その後同年一二月八日二筆に分筆されたものである。)。

(2) その後、一〇二八番三の土地及びこれに南隣する有村正二所有の鹿屋市笠之原町一〇二八番四山林二二一平方メートル(以下「一〇二八番四の土地」という。)について担保権の実行としての競売の申立がされ(鹿児島地方裁判所鹿屋支部昭和六一年(ケ)第七号)、その競売手続において、昭和六二年六月二四日原告がこれらを競落し、同年七月二四日その旨の所有権移転登記を経由し、他方、(一)、(二)の土地(前記分筆・合筆前の一〇二七番一の土地と一〇二八番一の土地)について担保権の実行としての競売の申立がされ(同裁判所同支部昭和六〇年(ケ)第六四号)、その競売手続において、昭和六二年一二月二三日被告岩越がこれらを競落し、昭和六三年二月一日その旨の所有権移転登記を経由し、被告岩越は被告鹿児島リコーに対し、平成元年八月二九日(一)の土地を売渡して翌三〇日その旨の所有権移転登記を経由した。

(3) ところで、民法二一三条二項は、本件のように、同一人が数筆の一団の土地を所有し、その一部が担保権の実行としての競売によって他人の所有になった場合にも適用されるのであるから、原告は、同項により本件係争部分の土地について囲繞地通行権を有する。

4. ところが、被告らは、いずれも原告が本件各係争部分の土地について囲繞地通行権を有することを争い、本件各係争部分を含む自己所有地に、建物を建築し、物置を設置し、柵あるいは塀をめぐらそうとしている。

5. よって、原告は、被告らに対し、本件各係争部分の土地について、囲繞地通行権の確認と、右権利に基づき、柵・塀・物置その他原告が通行する妨げとなる一切の工作物を設置してはならないことを求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2の事実は否認する。一〇二八番三の土地に南隣する原告所有の一〇二八番四の土地の南隣は公路に接続している。

3.(1) 同3(1)の事実は認める。

(2) 同3(2)の事実は認める。

(3) 同3(3)の主張は争う。民法二一三条二項は、同一人が数筆の一団の土地を所有している場合において、その一部が任意譲渡されたときはもとより、その一部が担保権の実行としての競売によって他人の所有になったときは、適用されないというべきである。

原告は、以下の理由により、一〇二八番三の土地に東隣する、平嶺福恵所有の鹿屋市笠之原町一〇二八番八山林二二一平方メートル(以下「一〇二八番八の土地」という。)、あるいは一〇二八番四の土地に東隣する、同人所有の同市同町一〇二八番九山林二二四平方メートル(以下「一〇二八番九の土地」という。)を囲繞地として通行すべきである。

〈1〉  一〇二八番三の土地と一〇二八番八の土地、一〇二八番四の土地と一〇二八番九の土地は、それぞれ元同一人の所有する一筆の土地であり、一〇二八番八の土地あるいは一〇二八番九の土地の東隣は公路に接続している。

〈2〉  囲繞地として利用される通路の長さ・面積、地目価格等からみて、(一)、(二)の土地に比して一〇二八番八の土地あるいは一〇二八番九の土地の方が損害が少ない。

〈3〉  被告岩越は、本件を解決するために、平嶺に対し一〇二八番九の土地の一部を原告の通路の敷地とすべく買受けの交渉をしようとしたところ、有村正二が原告の背後にいてこれを妨害した。

なお、仮に(一)、(二)の土地について、原告の主張する民法二一三条二項の囲繞地通行権が生ずるとしても、(一)の土地の特定承継人である被告鹿児島リコーに対する関係では、その効力は及ばず、消滅するというべきである。

4. 同4の事実は認める。

第三、証拠〈略〉

理由

一、請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二、証拠(乙二、五の1ないし3、証人有村成子)に弁論の全趣旨を総合すると、一〇二八番三の土地は他の土地に囲繞せられて公路に通じないことが認められる。

もっとも、被告らは、一〇二八番三の土地に南隣する原告所有の一〇二八番四の土地の南隣は公路に接続していると主張するが、前記証拠によると、一〇二八番四の土地の南隣は墓地であって公路でないことが認められる。

三、請求原因3(1)(2)の事実は、当事者間に争いがない。

民法二一三条二項は、本件のように、同一人が数筆の一団の土地を所有し、その一部が担保権の実行としての競売によって他人の所有になった場合にも類推適用されるものと解する。けだし、右規定は、土地の利用の調整を目的とするものであって、土地所有者の一部譲渡のように自らの都合によって袋地を生じさせる場合には、通行権の必要性は当然予測されるから、その土地関係者内部の責任において処理をすべきであって、他に累を及ぼすべきでなく、通行権の代価も折り込まれているはずであるという趣旨に基づくものであるところ、同一人が数筆の一団の土地を所有し、その一部が譲渡される場合も、一筆の土地の一部を分筆のうえ譲渡される場合と比して、囲繞地の通行につき別異に解する特別の理由がないばかりでなく、元の一団の土地のみを通行すべきであると解する方が第三者への影響を及ぼさないこととなって、右規定の趣旨に合致するからである。また、その一部が担保権の実行としての競売によって他人の所有になった場合にも、右競売自体は、担保権利者が把握した土地の財産的価値を満足させるために行われるものであって、必ずしも土地所有者の任意行為によるものとはいえないが、広い意味において、担保権利者等土地の権利者の都合で袋地を発生させたというほかなく、しかも、その土地の利用関係については、任意売買と異にするところはなく、代価の決定についても通行権の存在が考慮されてしかるべきだからである。

したがって、原告は、(一)、(二)の土地を囲繞地としてその一部につき囲繞地通行権を有するというべきである。

なお、被告らは、一〇二八番三の土地と一〇二八番八の土地、一〇二八番四の土地と一〇二八番九の土地は、いずれも元同一人の所有する一筆の土地であり、一〇二八番八の土地あるいは一〇二八番九の土地の東隣は公路に接続しているから、原告は一〇二八番八の土地あるいは一〇二八番九の土地を囲繞地として通行すべきであると主張するが、被告ら主張の事実を前提にしても、その後、(一)、(二)の土地及び一〇二八番三の土地が同一人の所有になった時点で、被告ら主張の囲繞地通行権は消滅したものというべきである。

また、被告らは、仮に(一)、(二)の土地について、民法二一三条二項の囲繞地通行権が生ずるとしても、(一)の土地の特定承継人である被告鹿児島リコーに対する関係では、その効力は及ばず、消滅するというべきであると主張するが、同項の規定する囲繞地通行権は、囲繞地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではないと解せられる(最高裁判所第三小法廷平成二年一一月二〇日判決・判例時報一三九八号六〇頁参照)から、被告らの右主張は採用しえない。

そして、本件一〇二八番三の土地の現況が宅地であって、証拠(証人有村成子)によって認められる、現に右土地上に居住用の建物が存在すること、その他本件証拠によって認められる一切の諸事情を総合すると、(一)、(二)の各土地のうち、本件各係争部分の土地が本件一〇二八番三の袋地の通路として必要であって、かつ囲繞地のため損害が最も少ないと認めるのが相当である。

四、請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

五、以上の次第で、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

物件目録(一)

所在 鹿屋市笠之原町

地番 壱〇弐七番壱弐

地目 宅地

地積 六壱〇・〇四平方メートル

物件目録(二)

所在 鹿屋市笠之原町

地番 壱〇弐七番壱

地目 宅地

地積 弐参九・七八平方メートル

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例